ひかりのおと コメントPICK UP②
迫る東京公開に寄せられたコメントの数々。
ロッテルダム国際映画祭での出会いから、アジアフォーカス・福岡国際映画祭での上映が実現。「農業と映画」に関するシンポジウムも行われました。
映画祭ディレクターの梁木靖弘さんからいただいたコメントは、チラシでは一部抜粋となっていましたが、全文をご紹介します。
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「ひかりのおと」
梁木靖弘|アジアフォーカス・福岡国際映画祭ディレクター
『ひかりのおと』を見たのは、2012年1月の末、底冷えのするオランダのロッテルダム国際映画祭でのことだった。夜10時からの上映だった。人生はたまたまの積み重ねであるけれども、数限りなく出くわすたまたまの中から、これはと思うものをえり分け、自分の人生にしていくほかはないとすれば、『ひかりのおと』との邂逅も、必然的たまたまである。いまどきめずらしい、こんなに武骨で、愚直な直球勝負をいどむ監督と会いたくなった。
数日後、山崎樹一郎監督と落ち合い、カフェで話し込んだ。監督は、寡黙で、強情そうで、洋行したサムライは、きっとこんな感じだったろうと思わせるような面構え。ぼくは、監督とではなく、同行しているスタッフさんたちとワイワイしゃべった。
そして、この映画の可能性を掘り下げるべく、アジアフォーカス・福岡国際映画祭に招待する決心を固めた。この作品がいいのは、地域の映画をつくるという触れ込みで、東京あたりからスタッフキャストがやってきて、その場限りで農業問題を取り上げようとする「映画業界」の植民地主義的体質が一切ないことだ。それもそのはず、山崎監督は現役のトマト農家で、農閑期に映画を撮るという健全な姿勢を貫いている。かといって、映画を村おこしや地域おこしの手段にしかてしまうご当地映画の愚も犯さない。みごとに映画作家の個を貫いている。
農業と映画というと、国の減反政策に翻弄される農家だとか、過疎の村で後継ぎが不足している農家の現状など、ドキュメンタリの題材にふさわしいテーマが頭に浮かびそうだが、『ひかりのおと』が考えさせるのはそういうことではない。むろん、農業における流通革命や、農業に新風を吹き込むギャルや素人、企業家が農業に進出して新たなビジネスチャンスを、といったことでもない。もっと映画の本質に迫ることである。
関税が取り払われたあと、国内の農業は海外から押し寄せる格安(干ばつで逆に価格が高騰することもある)の農産物とどう向き合うのかという問題設定に、この「農業と映画」の問題意識は、近い。グローバル化がもたらすのは、すべてが経済の視点でコントロールされてしまい、そこに生きる人間の問題、さらに絞っていえば、個々の自立が無視されてしまうことだと思う。おそらく、映画も同じ問題を抱えている。経済のグローバル化が映画に要求するのは、消費としての映画であり、それをフランチャイズ化することであり、世界中どこでも同じものしか流通しない画一化である。もちろん、そこでも才能ある映画人は私的な、自立した作品をつくることはできるかもしれないが、それらが流通する回路(いわゆるアート系の単館の減少によって)はいよいよ閉ざされてしまうだろう。
そういういま、では、どこから考えればいいのだろうか?
人間の最後のよりどころは、農業である。文化(culture)ということばも、もとをただせば「耕す」(cultura)というラテン語であり、農業と文化の根っこはつながっている。フランスの哲学者ヴォルテールの小説「カンディード」の有名な結びの文句は、「とにかく、われわれの庭を耕さなければならない(mais il faut cultiver notre jardin.)」であった。とりあえずは、自分の庭へ戻るほかない。「ひかりのおと」が見据えているのは、じつはそのことである。
グローバル化に対して、農業から出てきたひとつの回答は、「地産地消」である。生ものである農産物は、「地産地消」が理想である。では、複製時代の芸術である映画の「地産地消」は可能なのか。ロケ隊が大都市からやってきて、地方を舞台にして撮影し、それをご当地映画ですとふれこむようなものではなく、その土地に住む人が映画をつくり、その土地の人々が見るような映画は、可能なのか。
岡山県真庭市に住む山崎樹一郎という人が実行しているのは、その問いにほかならない。トマト農家として暮らしながら、農閑期に映画を撮っている。さらに、フィルムをかついで、県内の公民館をこまめに回って、上映会をしている。さまざまな国際映画祭にも招待されている『ひかりのおと』は、そういう映画である。もちろん映画を地元で消費するわけではないので、山崎監督は「地産地生」ともじっている。
『ひかりのおと』は、映画によって農業を語るのでもなく、農業から映画を学ぶのでもない。グローバル化の中で、いかにしてわたしたちは自立できるかを考えさせてくれるのである。(2013・1・1)

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2月9日(土)よりオーディトリウム渋谷にて3週間限定ロードショー!
[日程]
2月9日(土)〜2月15日(金) 11:00
2月16日(土)〜2月22日(金) 10:00
2月23日(土)〜3月1日(金) 19:00
☆初日舞台挨拶
2月9日(土)上映前
登壇者:森衣里(出演)、真砂豪(出演)、山崎樹一郎監督
☆監督ティーチイン
2月10日(日)、11日(月・祝)上映後
山崎樹一郎監督によるトークとQ&A
※他、イベントは順次発表します。
[料金]
特別鑑賞券=1200円
一般=1500円/学生・シニア=1200円/高校生=800円/中学生以下=500円
http://a-shibuya.jp/archives/4393
ロッテルダム国際映画祭での出会いから、アジアフォーカス・福岡国際映画祭での上映が実現。「農業と映画」に関するシンポジウムも行われました。
映画祭ディレクターの梁木靖弘さんからいただいたコメントは、チラシでは一部抜粋となっていましたが、全文をご紹介します。
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「ひかりのおと」
梁木靖弘|アジアフォーカス・福岡国際映画祭ディレクター
『ひかりのおと』を見たのは、2012年1月の末、底冷えのするオランダのロッテルダム国際映画祭でのことだった。夜10時からの上映だった。人生はたまたまの積み重ねであるけれども、数限りなく出くわすたまたまの中から、これはと思うものをえり分け、自分の人生にしていくほかはないとすれば、『ひかりのおと』との邂逅も、必然的たまたまである。いまどきめずらしい、こんなに武骨で、愚直な直球勝負をいどむ監督と会いたくなった。
数日後、山崎樹一郎監督と落ち合い、カフェで話し込んだ。監督は、寡黙で、強情そうで、洋行したサムライは、きっとこんな感じだったろうと思わせるような面構え。ぼくは、監督とではなく、同行しているスタッフさんたちとワイワイしゃべった。
そして、この映画の可能性を掘り下げるべく、アジアフォーカス・福岡国際映画祭に招待する決心を固めた。この作品がいいのは、地域の映画をつくるという触れ込みで、東京あたりからスタッフキャストがやってきて、その場限りで農業問題を取り上げようとする「映画業界」の植民地主義的体質が一切ないことだ。それもそのはず、山崎監督は現役のトマト農家で、農閑期に映画を撮るという健全な姿勢を貫いている。かといって、映画を村おこしや地域おこしの手段にしかてしまうご当地映画の愚も犯さない。みごとに映画作家の個を貫いている。
農業と映画というと、国の減反政策に翻弄される農家だとか、過疎の村で後継ぎが不足している農家の現状など、ドキュメンタリの題材にふさわしいテーマが頭に浮かびそうだが、『ひかりのおと』が考えさせるのはそういうことではない。むろん、農業における流通革命や、農業に新風を吹き込むギャルや素人、企業家が農業に進出して新たなビジネスチャンスを、といったことでもない。もっと映画の本質に迫ることである。
関税が取り払われたあと、国内の農業は海外から押し寄せる格安(干ばつで逆に価格が高騰することもある)の農産物とどう向き合うのかという問題設定に、この「農業と映画」の問題意識は、近い。グローバル化がもたらすのは、すべてが経済の視点でコントロールされてしまい、そこに生きる人間の問題、さらに絞っていえば、個々の自立が無視されてしまうことだと思う。おそらく、映画も同じ問題を抱えている。経済のグローバル化が映画に要求するのは、消費としての映画であり、それをフランチャイズ化することであり、世界中どこでも同じものしか流通しない画一化である。もちろん、そこでも才能ある映画人は私的な、自立した作品をつくることはできるかもしれないが、それらが流通する回路(いわゆるアート系の単館の減少によって)はいよいよ閉ざされてしまうだろう。
そういういま、では、どこから考えればいいのだろうか?
人間の最後のよりどころは、農業である。文化(culture)ということばも、もとをただせば「耕す」(cultura)というラテン語であり、農業と文化の根っこはつながっている。フランスの哲学者ヴォルテールの小説「カンディード」の有名な結びの文句は、「とにかく、われわれの庭を耕さなければならない(mais il faut cultiver notre jardin.)」であった。とりあえずは、自分の庭へ戻るほかない。「ひかりのおと」が見据えているのは、じつはそのことである。
グローバル化に対して、農業から出てきたひとつの回答は、「地産地消」である。生ものである農産物は、「地産地消」が理想である。では、複製時代の芸術である映画の「地産地消」は可能なのか。ロケ隊が大都市からやってきて、地方を舞台にして撮影し、それをご当地映画ですとふれこむようなものではなく、その土地に住む人が映画をつくり、その土地の人々が見るような映画は、可能なのか。
岡山県真庭市に住む山崎樹一郎という人が実行しているのは、その問いにほかならない。トマト農家として暮らしながら、農閑期に映画を撮っている。さらに、フィルムをかついで、県内の公民館をこまめに回って、上映会をしている。さまざまな国際映画祭にも招待されている『ひかりのおと』は、そういう映画である。もちろん映画を地元で消費するわけではないので、山崎監督は「地産地生」ともじっている。
『ひかりのおと』は、映画によって農業を語るのでもなく、農業から映画を学ぶのでもない。グローバル化の中で、いかにしてわたしたちは自立できるかを考えさせてくれるのである。(2013・1・1)

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2月9日(土)よりオーディトリウム渋谷にて3週間限定ロードショー!
[日程]
2月9日(土)〜2月15日(金) 11:00
2月16日(土)〜2月22日(金) 10:00
2月23日(土)〜3月1日(金) 19:00
☆初日舞台挨拶
2月9日(土)上映前
登壇者:森衣里(出演)、真砂豪(出演)、山崎樹一郎監督
☆監督ティーチイン
2月10日(日)、11日(月・祝)上映後
山崎樹一郎監督によるトークとQ&A
※他、イベントは順次発表します。
[料金]
特別鑑賞券=1200円
一般=1500円/学生・シニア=1200円/高校生=800円/中学生以下=500円
http://a-shibuya.jp/archives/4393
by hikarinootoblog
| 2013-01-31 10:53
| 新着情報
岡山県真庭発、映画『ひかりのおと』の新着情報など
by hikarinootoblog
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